アマチュア最高峰の「ピュア・キューバンスタイル」はプロの世界に不向きなのか?
2013年4月。オリンピックを2連覇した「キューバのジャッカル」ギジェルモ・リゴンドーが「フィリピンの閃光」ノニト・ドネアに12ラウンド大差の判定勝ちを飾り、世界中のボクシングファンとボクシング関係者に2つの大きな衝撃を与えました。
ひとつは「アマチュア最高峰の技術を誇るギジェルモ・リゴンドーが軽量級最強のノニト・ドネアに快勝したこと」。もうひとつは「ピュア・キューバンスタイルと呼ばれるアマチュア最高峰のボクシングスタイルがプロの世界で不向きであるとアピールしてしまったこと」です。
試合に勝ったボクサーは、ギジェルモ・リゴンドーでした。しかし、「アグレッシブなボクシングで勝負すること」を前提に実現したマッチメイクで期待を裏切った「キューバの至宝」は「強いけど、つまらない」と酷評され、次戦のマッチメイクがなかなか決まらない泥沼へ引き込まれてしまったのです。
【Photo:Top Rank】
ギジェルモ・リゴンドー対ノニト・ドネアをテレビ中継したHBOは、露骨な「リゴンドー外し」に着手。ボクサーを励ますパーティに、世界チャンピオンや人気ボクサーがたくさん招待されましたが、ギジェルモ・リゴンドーの姿はありませんでした。スケジュールの都合が悪かったわけではなく、招待されなかったのです。
「戦うたびにファンが逃げる、最もコストパフォーマンスの悪いボクサー」。オリンピックを2連覇したギジェルモ・リゴンドーが「プロの世界」で与えられた不本意な評価です。アマチュア最高峰のテクニックを持つ全勝チャンピオンは、なぜボクシングの本場アメリカで「大衆ウケ」しないのでしょうか?
【Photo:Top Rank】
原因はシンプルで「リゴンドー陣営が目指すボクシングとファンが期待するボクシングに大きなズレがあるから」だと思います。オリンピック2連覇の実績を誇るギジェルモ・リゴンドーに対するファンの期待は、一般のボクサーと比較して、間違いなく大きなものになります。
おそらく、アメリカのファンや関係者は「うまくて、強いボクシング」を期待しているはずです。一方、ギジェルモ・リゴンドー陣営は「うまくて、負けないボクシング」を徹底しています。「勝利」や「試合内容」に対する優先順位の違いが「プロボクサー」ギジェルモ・リゴンドーの評価に直結していることは間違いありません。
個人的に、ギジェルモ・リゴンドーの「勝利を優先するボクシング」は決して間違っていないと思います。特に「勝って当たり前」と思われている金メダリストにとって「負け」を回避したい気持ちはすごく理解できます。勝ち続けたことで「今の地位」を築いたわけですからね。でも、勝利が必ずしも評価に直結しないところがプロの厳しさであり、難しさであることも間違いありません。
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