村田諒太選手とゾウ・シミンはアメリカ市場で苦戦するトップランクを救えるか?
日本に48年ぶりの金メダルをもたらした村田諒太選手。2大会連続の金メダルを含む3大会連続のメダル奪取に成功した「中国の英雄」ゾウ・シミン。トップランクCEOのボブ・アラムが熱視線を送る、アジアが生んだ2人のオリンピック金メダリストです。
2013年に入り、ボクシング界を代表する敏腕プロモーターのボブ・アラムは、アジア市場開拓の起爆剤として、2人の金メダリストと契約。ボクシングの本場アメリカでも大きな話題となりました。スポーツビジネスとして成り立つ「プロボクシングの世界」。トップランクがアマチュアの頂点をつかんだ両雄に白羽の矢を立てたことは自然の流れでした。
アメリカのボクシング市場は、ボブ・アラム率いるトップランクとオスカー・デラホーヤ率いるゴールデンボーイ・プロモーションズが激しいシェア獲得競争を繰り広げ、プロモーター間の対立が激化。アメリカ市場に限定すると、トップランクはシェアを奪われる苦しい立場に追い込まれています。
ライバルのゴールデンボーイ・プロモーションズは、オリンピックの金メダリストで、史上初の6階級制覇を成し遂げた「ゴールデンボーイ」オスカー・デラホーヤを広告塔に、アメリカとメキシコの人気ボクサーや有望株に集中投資することで、アメリカ市場のシェアを急激に拡大することに成功しました。
さらに、ゴールデンボーイ・プロモーションズCEOのリチャード・シェイファーが「プロボクシングはエンターテインメント。勝利は大切だけど、すべてじゃないんだ」をモットーに、ファンが期待するエキサイティングなマッチメイクを次々と実現。チケットとPPVの売り上げも絶好調です。
抜群の知名度を生かしたオスカー・デラホーヤのメディア戦略。スイス銀行で巨額の資金を運用してきたリチャード・シェイファーの経営戦略。「ワンマン経営」が常識となっていたボクシングのプロモーションビジネスは、唯一無二の「ゴールデンボーイ」が作り上げた新興勢力によって、大きな変化を迎えることになりました。
アメリカ大陸出身のボクサーに集中投資をするゴールデンボーイ・プロモーションズに対して、マニー・パッキャオやノニト・ドネアが所属するトップランクは、世界各地から人気と実力を兼ね備えたボクサーが集結している「多国籍集団」です。
トップランクの戦略は、所属ボクサーの国際色をアピールできる反面、アメリカ国内で知名度を上げるためには、どうしても時間がかかってしまうという難点があります。諸刃の剣とも言えるデメリットを打破するため、トップランクは2013年に入り、本格的な新規市場の開拓に乗り出しました。
トップランクが狙うアジア市場の「本命」は中国のマカオです。ラスベガスを上回る潤沢なマネーが取引される「アジア最大の娯楽都市」。未開拓の中国ボクシング市場を切り開くべく、大きな期待を寄せられているボクサーが「中国の英雄」ゾウ・シミンです。
村田諒太選手より一足早くプロデビューを飾り、2連勝を記録しているゾウ・シミン。2013年11月には中国初登場となる「アジアの英雄」マニー・パッキャオと「新時代の激闘王」ブランドン・リオスのアンダーカードで試合を行う予定です。
ボクシング界のトップを走り続けてきた「トップランクの顔」マニー・パッキャオがマカオで試合をするサプライズこそ、トップランクの「中国市場を開拓したい」という本気度を知ることができる決断ですね。
一方、村田諒太選手は8月25日に日本でプロデビュー戦を行います。中国市場の開拓を期待されるゾウ・シミンと違い、村田諒太選手の最終目的地はアメリカのラスベガス。激戦区のミドル級を舞台に、世界チャンピオンと拳を交える大一番の実現が、トップランクの目指すゴールです。
ゴールデンボーイ・プロモーションズと比べて、どちらかと言えば、軽量級のスーパースターを多く抱え、所属ボクサーの高齢化が進むトップランクにとって、村田諒太選手はアメリカ市場で息を吹き返すための切り札と言える存在なのです。
村田諒太選手が参戦するミドル級は「プロモーター間のしがらみ」が最も少ない理想的な階級です。WBOチャンピオンのピーター・クイリンは、トップランクのライバルであるゴールデンボーイ・プロモーションズの所属なので、対戦の可能性は低いかもしれませんが、残りの3人の世界チャンピオンに挑戦できる可能性は十分にあると思います。
2013年8月のミドル級戦線は「2人の最強」が君臨するツートップ状態。ひとりは「ミドル級最強のファイター」WBAチャンピオンのゲンナディ・ゴロフキン。もうひとりは「ミドル級最強のテクニシャン」WBCチャンピオンのセルヒオ・マルチネスです。なお、ゲンナディ・ゴロフキンとセルヒオ・マルチネスの対戦は2014年をメドに話が進められています。
そんなこんなで、個人的に「IBFチャンピオンのダレン・バーカーに挑戦するチャンスをつかむことができれば、タイトル奪取の可能性はあるんじゃないかな?プロの世界でも頂点をつかめることを証明して、最終的に、ゴロフキン対マルチネスの勝者と戦えたら最高だなあ」と妄想しています。
激戦区ミドル級でタイトル挑戦のチャンスをつかむため、村田諒太選手としては、全勝(または無敗)のレコードをキープしながら「いかに派手な勝ち方を続けられるか」が「タイトル挑戦までの距離」を決めるポイントになりそうですね。8月25日はいろんな意味で楽しみなデビュー戦です。
ボクシングの殿堂入りを果たしているボブ・アラムが強烈にプッシュする村田諒太選手とゾウ・シミン。アジアが生んだ2人の金メダリストは、世界戦略を掲げ、新たな市場開拓を目指すトップランクの起爆剤となれるでしょうか?日本が誇る金メダリストのプロデビュー戦に注目しましょう。