勇猛果敢なミゲール・コット！絶体絶命のセルヒオ・マルチネス

中盤は、お互いに手数が減り、フェイントをかけ合う展開が続き、迎えた7ラウンド。セルヒオ・マルチネスがプレッシャーをかけて、勝負に出ます。初めて、自分からプレッシャーをかけて、逆転勝利をつかみ取りたいセルヒオ・マルチネス。しかし、ミゲール・コットがフットワークとブロッキングを駆使して、クリーンヒットを許しません。

「マルチネスはいよいよ苦しくなってきたね。終盤勝負を考えてるコットと違って、いっぱいいっぱいだよ」と思い始めた9ラウンド40秒。ミゲール・コットがショートの右フックを打ち込み、セルヒオ・マルチネスの動きが鈍ります。攻撃にシフトしたミゲール・コットは強烈なアッパーで追撃！セルヒオ・マルチネスは何とか耐えましたが、反撃できる力が残っていないようです。

「あああ、もう無理だよ。ダメージが蓄積する前に止めてあげて」と思っていると、9ラウンド終了間際、ミゲール・コットの左ジャブでセルヒオ・マルチネスの腰が落ち、レフェリーがダウンと判定。リプレイをチェックする限り、ダウンじゃない気がしますが、セルヒオ・マルチネスは立っているだけで精一杯の状態です。コーナーへ戻る足取りがめっちゃ重いですね。

【Photo:HBO】

10ラウンド開始のゴングが鳴り、ミゲール・コットはリング中央へ向かおうとしますが、セルヒオ・マルチネスのセコンドがギブアップをレフェリーに告げ、勝負あり。熱烈に応援しているセルヒオ・マルチネスとミゲール・コットが激突した夢のスーパースター対決は、ミゲール・コットがセルヒオ・マルチネスに10ラウンドTKO勝ちを飾り、4階級制覇を達成しました。

ミゲール・コットが完璧なコンディションでリングに上がり、最高の作戦でセルヒオ・マルチネスを圧倒した試合でしたね。ガードを下げて戦うサウスポーのセルヒオ・マルチネスに対して、最も近い距離で当たる左フックを中心に攻撃を組み立て、1ラウンドで完全に主導権を握りました。ミゲール・コットのパンチと体のキレがすごかったです！

ミゲール・コットが得意とする左フックが当たる距離は、セルヒオ・マルチネスが得意とする左ストレートが当たるポジションなので、試合前は「左フックは諸刃の剣だよね？いくらディフェンスがうまいコットでもリスキーすぎるよ。距離を詰めて、ボディから顔面へ打ち分けるボクシングが理想的じゃないかな？」と予想していました。圧巻のミゲール・コット、男前すぎるボクシングでした！

【Photo:HBO】

一方、1年1か月ぶりの復帰戦となったセルヒオ・マルチネスは本来の輝きを放つことができないまま、無念の王座陥落となってしまいました。セルヒオ・マルチネスの大ファンなので、本当に胸が痛かったです。オスカー・デラホーヤがマニー・パッキャオに完敗した禁断のスーパースター対決を思い出しながら、最後は「もう十分だよ。早くストップしてあげて」と祈りながら観戦しました。

セルヒオ・マルチネスは言い訳をしないボクサーなので、試合後のインタビューで主役の座を奪うことを断固として拒否しました。最後の最後まで誇り高かった「驚異の男」セルヒオ・マルチネス。試合前、セルヒオ・マルチネスのドキュメンタリー番組をチェックする機会がありました。セルヒオ・マルチネスは手術したヒザについて、インタビューで、次のようにコメントしていたんです。

「ヒザの手術は無事に終わったけど、リハビリ期間はもう二度と歩けないかもしれない恐怖に支配されそうな日々だったよ。でも、毎日、もう一度、リングに上がって試合をすることだけを考えていたんだ。あと1試合しか戦えなくてもいい。もう一度、チャンピオンとして、リングに上がりたい。手術を乗り越えて戦う私の姿を見て、前向きな気持ちになれる人がいるかもしれないだろ？」

アルゼンチンが生んだスーパースターは、リハビリを乗り越え、世界チャンピオンとして、再びリングに上がりました。しかし、世界チャンピオンとして、リングを去ることはできませんでした。ボクシングを愛する素人ファンは、満身創痍（まんしんそうい）で戦い抜いたセルヒオ・マルチネスの勇姿を決して忘れません。勝者と敗者のどちらも美しかった夢のスーパースター対決でした。

セルヒオ・マルチネス対ミゲール・コットの試合結果