実戦を重ねながらボクシングの幅を広げてきた生粋のファイター
デビューから12戦の戦績が9勝3敗。この数字だけを見ると、「並みのボクサー」だと判断されてもおかしくない戦績です。しかし、デビューから14年後の2008年7月、世界中のボクシングファンがデビュー当時ほとんど注目されることがなかったボクサーの姿に酔いしれました。メキシコ出身のアントニオ・マルガリート。打ち合いを好むタフで勇敢なファイターです。
マルガリートの特徴を簡単に説明すると、「連打型のタフなファイター」ですが、対戦相手にとって脅威なのは、「12ラウンド休まず戦えるスタミナ」と「打たれても前に出続けられるタフネス」ですね。しかも、177センチとウェルター級にしては長身なんですよね。
一見すると、「ひょろっとした」印象ですが、エネルギッシュで誰と戦っても前に出て打ち合おうとします。器用なボクサーではありませんが、フィジカルとメンタル両方のタフネスを兼ね備えている対戦相手にしたくないボクサーですね。
オスカー・デラホーヤやフェリックス・トリニダードなど常にスポットライトを浴びるスター選手と違い、コツコツと実績を積み上げてきたマルガリートが初めて世界タイトルに挑戦したのが2001年7月。相手はWBO世界ウェルター級チャンピオンのダニエル・サントスです。マルガリートにとってデビューから7年目の世界初挑戦でしたが、結果は1ラウンド負傷による無効試合。「強いけど本当に運がないなあ」というのが正直な感想です。
ところが、翌2002年、「強いけど運がない」マルガリートに再び王座奪取のチャンスが舞い込んできます。WBO世界ウェルター級チャンピオンのサントスが減量苦のため、スーパーウェルター級転向を表明したのです。これにより、空位となったWBO世界ウェルター級タイトルをマルガリートとアントニオ・ディアスが争うことになりました。試合は激しい打撃戦の末、マルガリートの10ラウンドTKO勝ち。「隠れた最強の男」がついに世界タイトルを獲得したのです。
マルガリートは同タイトルを3度防衛後、2004年に階級をひとつ上げて、サントスが持つWBO世界スーパーウェルター級タイトルに挑戦。ウェルター級で決着をつけられなかった因縁の相手、サントスに序盤こそポイントを奪われますが、しだいに盛り返し始めます。
ところが、6ラウンドにバッティングで右目をカット。巻き返しを図りたいマルガリートでしたが、10ラウンドに続行不可能と診断され、勝負の行方は負傷判定へ。結果は2-1でサントスの勝利。後半盛り返してきたマルガリートが逆転しそうな展開でしたが、またも負傷に泣かされてしまいます。
1996年以来の負けを喫したマルガリートですが、ウェルター級タイトルを保持したままの2階級制覇挑戦だったので、ウェルター級チャンピオンであることに変わりはなく、その後はウェルター級タイトルの防衛に焦点を絞ります。2005年には全勝強打の暫定チャンピオン、カーミット・シントロン相手に完璧なボクシングで、5ラウンドTKO勝ち。「ウェルター級にマルガリートあり」を証明します。
この頃から「マルガリート最強説」がささやかれ始めたのですが、ビッグファイトには恵まれませんでした。手数が多く、タフなボクサーの宿命とも言えますが、特に「綺麗なボクシング」を得意とするタイプのボクサーを自分のペースに巻き込み、タフネスにモノを言わせる打ち合いでつぶすボクシングをするため、どうしても対戦を避けられる傾向にあるんです。
パウンド・フォー・パウンドの称号を持つフロイド・メイウェザーが対戦を嫌がったのは有名で、誰もが認める実力を持つにも関わらず、ビッグマッチの経験が乏しいマルガリートは世界的な名誉と人気を得るチャンスに恵まれないまま、2007年7月、最強の全勝挑戦者、ポール・ウィリアムスと激突します。
試合は息詰まる一進一退の攻防の末、挑戦者のウィリアムスが12ラウンド判定勝ち。マルガリートは約5年間守ってきたWBO世界ウェルター級タイトルを手放すことになります。しかし、この敗戦が「マルガリート最強説」を証明する大きなターニングポイントになったのです。