WBA世界ウェルター級タイトルマッチ
チャンピオン | アントニオ・マルガリート(メキシコ) 戦績:43戦37勝27KO5敗1無効試合 |
挑戦者 | シェーン・モズリー(アメリカ) 戦績:51戦45勝38KO5敗1無判定 |
試合内容
2008年7月、ミゲール・コットが持つWBA世界ウェルター級タイトルに挑戦し、11ラウンドTKO勝ちでタイトル奪取に成功したアントニオ・マルガリート。「ティファナの竜巻」のニックネーム通り、打ち出したら止まらない連打で数々の強豪をマットに沈めてきたファイターです。
今や「ウェルター級最強」と呼ばれるアントニオ・マルガリートに挑戦するのは、3階級制覇を達成した「シュガー」、シェーン・モズリー。2008年9月には、2階級制覇を達成したニカラグア出身の強打者、リカルド・マヨルガに残り1秒でKO勝ちを収めるなど、37歳になった今もパンチ、動きのスピードは健在です。
決戦の舞台はカリフォルニア州ステイプルズセンター。2万人以上のボクシングファンが集まっています。ミゲール・コットを打ち倒し、一躍ボクシング界の中心となったアントニオ・マルガリートが、ベテランのスピードスター、シェーン・モズリー相手にどんな戦いを披露するのか?リングサイドからアーノルド・シュワルツネッガー州知事とシルベスター・スタローンさんも見つめる中、2009年最初のビッグマッチのゴングが鳴り響きます。
立ち上がりまずペースを握ったのは、挑戦者のシェーン・モズリー。1ラウンド30秒過ぎには、強烈な右ボディーブローを叩き込み、アントニオ・マルガリートの体が一瞬沈みます。さらに、2分過ぎには、左ジャブを2連打後、最短距離を走る右ストレートがチャンピオンのアゴにクリーンヒット。シェーン・モズリーはパンチを思いっきり打ちこんでいますね。
アントニオ・マルガリートはシェーン・モズリーが1ラウンドからこれほどパンチを打ってくるとは予想していなかったのか、それともシェーン・モズリーのパンチが予想以上に速いのか、必要以上にシェーン・モズリーの動きを見ている感じで、いつもより手数が少ないですね。
「マルガリートはスロースターだし、少しずつエンジンがかかっているはず」と思っていたのですが、ラウンドを重ねても、アントニオ・マルガリートがシェーン・モズリーをとらえる場面を観ることはできず、反対に、シェーン・モズリーのパンチをカウンターでまともにもらい続ける苦しい展開。
これまで、アントニオ・マルガリートと対戦したボクサーは、距離を取って戦う作戦を選ぶことが多かったのですが、シェーン・モズリーはアントニオ・マルガリートが出てくるところに体重を思いっきり乗せたパンチを打ち込み、打つことでチャンピオンの突進を止めようとしています。タイミングの良いカウンターと勇気を持っていないと実行できない作戦です。
さらに、驚いたのがシェーン・モズリーのクリンチ技術。アントニオ・マルガリートが得意とする接近戦を封じるため、パンチを打ち終わった後すぐにチャンピオンに体を預けて連打を許しません。「マルガリートの力強さが、モズリーの経験とテクニックで完全に潰されちゃってるよ」と予想外の展開にビックリする管理人。
アントニオ・マルガリートは、相手がガードをしていても、ガードの上からお構いなしにパンチを打ち続けてリズムを作るタイプなので、リズムに乗せないためには、クリンチを主体とする「パンチを打たせないディフェンス」、または「パンチを空振りさせるディフェンス」が有効だと思うのですが、シェーン・モズリーは両方を完璧に実行しています。アントニオ・マルガリートをこれだけ完璧に空回りさせるボクサーは初めてではないでしょうか?
中盤以降も、前へ出てくるアントニオ・マルガリートに対して、シェーン・モズリーがカウンターのパンチを打ち込む展開が続き、「いくらタフで後半に強いマルガリートでも、これだけパンチをもらっちゃったら、ダメージが蓄積しすぎて反撃できないよ」と思うほど、一方的な展開です。
そして、迎えた8ラウンド。管理人の目の前に全く予想しなかった光景が広がります。体格で劣るシェーン・モズリーがクリンチでチャンピオンのアントニオ・マルガリートを押し込む場面が目立つようになったんです。「こりゃあ、いよいよ、マルガリートは危ないんじゃないかな?」と思っていると、残り40秒、マルガリートの右アッパーが空を切り、体が流れたところへ、モズリーが右アッパーから飛び込んで左フック、右フックの返しを打ち込み、さらに追い打ちをかけて、左フックから右ストレートの打ち下ろし3連発でダウンを奪います。
何とか立ち上がり、ゴングに救われたアントニオ・マルガリートですが、ダメージはめちゃめちゃ深いです。1分のインターバルの間、セコンドが必死にダメージと意識の回復に努めますが、焦点が定まっておらず、「もうストップしたほうがいいんじゃないかな?」と心配になる管理人。しかし、チャンピオンは重いダメージを背負ったまま、リングへ戻ります。
9ラウンド開始から15秒間は時間がゆっくりと流れます。その15秒間で、アントニオ・マルガリートに力が残っていないことを確認すると、シェーン・モズリーが一気に力を込めてパンチを連打し、チャンピオンをロープへ追いつめます。そして、左フック、右フック、左フック、左フック、右フックを顔面に叩き込み、アントニオ・マルガリートが崩れ落ちたところで、レフェリーストップ。一方的な展開でシェーン・モズリーがアントニオ・マルガリートを打ち倒し、タイトル奪取に成功しました。
衝撃的な展開でしたね。シェーン・モズリーが勝つ可能性はあると思っていましたが、タフなアントニオ・マルガリートがマットに沈むとは全く予想できませんでした。しかも、一方的な試合内容ですよ。2008年12月に行われたオスカー・デラホーヤ対マニー・パッキャオ戦を観ているようで、ボクシングにおけるスピードの重要性を再認識させられる試合でした。
アントニオ・マルガリートとシェーン・モズリーの相性もあると思いますが、この試合に関してはシェーン・モズリーの出来が素晴らしかったですね。アントニオ・マルガリートの実力を考えると、これまで観たシェーン・モズリーのベストファイトだと思います。「経験とスピード」が「パワー」を凌駕した試合内容に、ただただ驚いています。
試合結果
試合結果 | シェーン・モズリーが9ラウンドTKO勝ちでタイトル奪取。アントニオ・マルガリートは初防衛に失敗し、王座陥落。 |