WBC世界フェザー級タイトルマッチ
チャンピオン | 粟生隆寛(日本・帝拳ジム) 戦績:19戦17勝8KO1敗1分 |
挑戦者 | エリオ・ロハス(ドミニカ共和国) 戦績:21戦20勝13KO1敗 |
試合内容
2009年3月、オスカー・ラリオスとの再戦に大差の判定勝ちを収め、悲願の世界チャンピオンベルトを獲得した粟生隆寛(あおう・たかひろ)選手。日本が誇る「次世代のエース」がランキング1位、エリオ・ロハスを迎えて初防衛戦を行います。粟生隆寛選手がアマチュアで208戦205勝3敗の驚異的なレコードを持つエリオ・ロハス相手にどんなボクシングを展開するのか注目です。
試合はお互いが相手の様子をうかがう静かな立ち上がり。挑戦者のエリオ・ロハスはリーチが長く、右足を思い切り引いて構えるため、粟生隆寛選手は想像以上に距離の違いを感じているかもしれません。また、粟生隆寛選手がエリオ・ロハスの左フックを警戒してか、右をジャブ(攻撃)ではなく、ガード(守備)に使っているので、エリオ・ロハスがのびのびと攻撃しています。
「うーん、ロハスのパンチが予想以上に伸びるなあ。粟生選手のほうがパンチ力は上だけど、ロハスのパンチのほうが的確に急所をとらえているよ。粟生選手は右ジャブを突いたり、左ストレートをリードパンチに使ったりして、ロハスより先にパンチを打って、ロハスのリズムを崩したいなあ」というのが序盤4ラウンドの印象です。
4ラウンド終了後、オープン・スコアリング・システムによる4ラウンドまでの採点結果が公開され、3人のジャッジすべてが挑戦者のエリオ・ロハスを支持(2人が39-37、残り1人が40-36のフルマーク)。採点結果を確認したエリオ・ロハスは気分を良くしたのか、5ラウンドに入ると、開始直後から積極的にパンチを打ち込み、試合の主導権を一気に握ろうとします。
7ラウンドに入ると、粟生隆寛選手がラウンド開始直後からプレッシャーを強めて勝負に出ます。「勝負だよ、粟生選手。頑張れ!」と思わず口にする管理人。すると、ラウンド中盤に粟生隆寛選手の左ストレートがエリオ・ロハスの顔面をとらえ、さらにクリンチ際に強烈な右フックでダメージを与えます。
「よっしゃ、チャンス!」と絶叫する管理人ですが、エリオ・ロハスは粟生隆寛選手の追撃を防ぐため、執拗にクリンチをして離しません。悔しいですが、さすがはアマチュア出身の強豪。ピンチのとき、どうすれば最小限のダメージで切り抜けられるのかを体で覚えているようです。
8ラウンド終了後に再び採点が公開され、3人のジャッジすべてがエリオ・ロハスを支持(79-73、78-74、78-75)。9ラウンドに入ると、公開採点の結果を確認した粟生隆寛が勝負をかけますが、エリオ・ロハスはアウトボクシングに切り替え、上下にパンチを散らしながら、打ち終わるとすぐに距離を取ります。ラウンド中盤には、粟生隆寛選手がエリオ・ロハスの右フックに合わせて、強烈な左ストレートのカウンターを打ち込みますが、エリオ・ロハスが抜群のクリンチワークで追撃を防ぎ、最小限のダメージでラウンドを終えます。
その後は、初防衛に執念をみせる粟生隆寛選手が前へ出てポイントを挽回しようとしますが、エリオ・ロハスが右ストレートを中心にカウンターを奪う展開が続き、12ラウンド終了のゴング。結果は、エリオ・ロハスが粟生隆寛選手に3-0の判定勝ちを収め、初の世界タイトルを獲得しました。
粟生隆寛選手にとってはホロ苦い初防衛戦となってしまいました。粟生隆寛選手の良さがエリオ・ロハスの技術、経験に消されてしまった印象です。特に、エリオ・ロハスのパンチを当てる上手さ、クリンチワークを含むディフェンス技術は敵ながらあっぱれで、長いリーチを活かした、懐の深いボクシングで飛び込んでくる相手を空回りさせるエリオ・ロハスは、粟生隆寛選手にとって、相性の良くない挑戦者だったと思います。
ただ、「何度戦っても勝てないんだろうなあ」というほどの相性の悪さは感じませんでした。管理人が考える今回の試合の明暗は「手数」です。とにかく先にパンチを出して、コツコツとダメージを与えてポイントを奪ったエリオ・ロハスに対して、粟生隆寛選手はリードパンチを省略した「力のボクシング」で勝負し、エリオ・ロハスの術中にハマった感があります。
エリオ・ロハスはパンチの当て勘、ディフェンス技術に秀でたボクサーですが、決して打たれ強いボクサーではありませんし、スタミナ豊富なボクサーでもありません。もし粟生隆寛選手が強いパンチではなく、回転の速いパンチに専念し、ガードの上からでも構わないので、エリオ・ロハスに当てることができれば、プレッシャーを与えながらスタミナを奪い、動きが鈍ったところへ、左ストレートや右フックを打ち込むチャンスがもっと増えたのではないでしょうか?
エリオ・ロハスは世界選手権で銅メダルを獲得したこともある本当に上手いボクサーですが、ホルヘ・リナレスや長谷川穂積選手と一緒に海外でトレーニングを重ね、初防衛戦のためにスタミナを強化してきた粟生隆寛選手なら、エリオ・ロハスを手数で黙らせるボクシングを実行に移せたはずです。
初防衛戦でプロ2敗目を喫し、王座から陥落した粟生隆寛選手。しかし、長谷川穂積選手、西岡利晃選手らが引っ張る日本ボクシング界の「次世代のエース」は、やはり粟生隆寛選手しかいないと思います。試合前、「強い相手と戦わないと意味がない」と言った粟生隆寛選手の言葉に日本ボクシング界の希望を感じたボクシングファンは管理人だけではないはずです。エリオ・ロハス、ユリオルキス・ガンボアら強豪ひしめくフェザー級で、粟生隆寛選手がもう一度チャンピオンベルトを腰に巻く日を楽しみに今後も応援を続けます。「次世代のエース」の復活に期待です!
試合結果
試合結果 | エリオ・ロハスが12ラウンド判定勝ちでタイトル奪取に成功し、粟生隆寛選手は王座陥落。管理人の採点は117-111でエリオ・ロハスの勝ちでした。 【公式ジャッジの採点結果】
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